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月姫 vs Fate

※本作は『 TYPE-MOON 』の作品をベースにした二次創作物です※

[00]

- prologue -

(――――――んっ?)
 それは慣れ親しんだ“終末”と違っていた。
 なにより苦痛が無い。  光が、音が、匂いが、味が、熱が、痛みが、苦しみが、叫びが、全てが抜け落ち、完全なる静寂に包まれ、静寂すら失われていく感覚――眠りに似ていながら魂が鈎爪で削られていく責め苦――が無いのである。
(――なぜだ?)
 “彼”は考えた。
 同時に“考える”という主体的な現象を起こしている自分に驚いた。
 おかしい。
 いや、違う。
 これこそが本物なのだ。“あの力”がもたらした本物の……
(なるほど)
 “彼”は苦笑した。
 苦笑するべき顔という部位を持ち合わせていないが、それでも“彼”は苦笑していた。
 本物の終わり。
 そこには苦痛など、欠片も存在していない。
 当然だ。
 作用には反作用が伴う。何かを為すには、ただ為そうとするだけで代価が求められる。
 つまりは、そういうことだ。
 ただそれだけのことだったのだ。


――イヤだ!


 誰かが叫んだ。


――イヤだ! イヤだ! イヤだ! 俺は! 俺はまだ!


 それは“彼”の中にあるものだった。
(なるほど……)
 立場が逆転している。だが、それもまた当然の結果にすぎない。
 “終末”を迎えた時は彼が主であり“彼”は従だった。いや、その時の“彼”は己を意識することすらできない魔術回路そのもの。すでに従とすらいえない状態にあった。だからこそ、“あの力”で先に“終末”を迎えていたのは彼であり、“彼”ではなかった。
 もちろん、その差は吐息ひとつ分しかない。
 すでに“彼”は彼であり、“彼”という現象は知識を付随した魔術回路の一種にすぎず、こうして思考という現象を自覚できているのも、結局は彼という現象に内包された思考という現象への支配力が……


ウソだ!――


 “彼”はギョッとした。


ウソだ! ウソだ! ウソだ! 僕は! 僕はまだ!――


 別の声だ。
 一瞬にして無限の時間の中、“終末”へと向かう道程に異なる現象が存在していた。


――イヤだ! イヤだ! イヤだ! 俺は! 俺はまだ! 俺はまだ!


 彼が叫ぶ。


ウソだ! ウソだ! ウソだ! 僕は! 僕はまだ! 僕はまだ!――


 別の声も叫ぶ。


――イヤだ! イヤだ! イヤだ! 俺は! 俺はまだ! 俺はまだ! 俺はまだ!


ウソだ! ウソだ! ウソだ! 僕は! 僕はまだ! 僕はまだ! 僕はまだ!――


 ふたつの声が重なった。


 死にたくない!


 そして第三の声が響く。

――ううん…………は死なないよ。だって、この門を閉じるのはわたしだから。

 彼方(かなた)にして此方(こなた)から響く少女の声は、“終末に至る道程”という現象を大きく揺るがした。

――じゃあ奇蹟を見せてあげる。前に見せた魔術(とおみ)の応用だけど、今度のはすごいんだよ。なんていったって、みんなが見たがってた魔法なんだから。

(これは……)
 “彼”は己という魔術回路から知識を組み上げた。
(……《聖杯》?)
 “彼”に匹敵する妄執を糧に、“彼”とは異なる手段を選び、それでも“彼”と同じ結果を求め続けた狂える一族の祭具――だが、おかしい。それが使われるのは、もっと先のはずだ。少なくとも前回から十年程度しか経っていない。“あれ”を行うには六十年もの歳月をかけ、《大聖杯》に魔力を貯えなければならないはずだ。そうでもしなければ《大聖杯》は起動せず、穴も開けられず、英霊を七騎も呼び出せず、《聖杯》を満たすことも……

――じゃあね。

 《聖杯》は微笑み、パタンと、《大聖杯》の門を閉ざした。


 因果が、歪められた。



━━━━━━━━◆━━━━━━━━



 それは不完全だったゆえに、不完全な結果を導き出してしまった。だからこそ、《世界》は可能な範囲で、可能な現象を用い、可能な状態まで修整した。ゆえに《世界》は現象の中心に干渉した。


 そこで不完全な第二魔法(多重次元屈折現象)が使われていたことも承知の上で。


 作用には反作用が伴う。
 何かを為すには、ただ為そうとするだけで代価が求められる。
 それだけのことだ。
 ただ、それだけのことだった。

prologue - END

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